未来は無色無音に

カップの中のコーヒーをぐちゃぐちゃかき混ぜた後のスプーンのやり場に困った。

普通に置くとスプーンに残った微量のコーヒーが膿みたいになるんだもの。

ゆっくり飲み終わった後はその膿が乾燥してだらしない血痕みたいだ死。

だから攪拌後のスプーンを口にくわえてパクリとなめればいいかもしれないけど、

ああ、マナーを知っている人ならうまい対処法を知っているんだろうね。

だからスプーンを足元の崖に捨てた。

しばらく待つけれどチャリーン、という音が聞こえない。

するべき音がしないのが楽しい。

等倍速で巻き戻し映像を見ている感じ。

カップも椅子も机も車にひかれた猫の衝突音も断末魔もブレーキ音も地球も宇宙も崖に放り込めたらいいのに。

とりあえずカップと椅子と机は投げ捨てた。

あとは全ての音をなくした車にひかれた猫を拾った。

もう少しで全てが投げ込めそうな気はするのだけれど。