2023-9-14
その昔、小さな庭に小さな蜜柑の木があって毎年クロアゲハが卵を産みに来たよ
蜜柑の木は根本をノコギリで切り倒されたじゃん
翌年、なくなった蜜柑の木の場所でクロアゲハが蜜柑の木を探しておろおろ飛んでいたよ
確かにここにあったのに
ほかの蜜柑の木を知らないのに
決死で飛んで探せばこの街で蜜柑の木が見つかるだろうか
見つからなければ死ぬだけ
でも確かに去年ここにあった。もしかして数センチ違う場所だったろうか
何分も何分もふわりふわり
明らかに困っている
頑張ってここで飛んでいれば蜜柑の木が生えることを願っているよう
僕は選択を迫られる
このクロアゲハ以外の 666 羽のクロアゲハを僕の手で握り潰せば蜜柑の木が生える
そんな選択肢を迫るのを握りつぶす
なぜか蝶の鱗粉で手がすべすべする感触。でも不快な
69 秒で 69cm の蜜柑の木がするすると伸びて甘苦そうな新葉が茂る
クロアゲハは歓喜して羽ばたきが早くなり、じっくりじっくり卵を産み付ける場所を探す
そして僕の脇を通り過ぎて弱弱しく低くどこかへ飛んで行く
それから数日は幼虫を食べようとニンゲンの卑しい顔のある小鳥が来るから握り潰す
ニンゲン小鳥は昼間しか来ないから
夜は車にひかれた猫を拾いにいけるからいいのだけど
だけど手が鱗粉とニンゲン小鳥の血で洗っても洗っても気持ち悪い
でも僕の自転車や家の中にサナギを作って飛んで行ったよ