僕は身動きがとれず、よせてはかえす波のように黙っていた。そこへミノタウロスの迷宮のような猫が通りがかった。僕に興味をひかれているくせしてわざと無視しているのがありあり分かって栄枯盛衰と言っても差し支えなかった。
どん。
猫はふいに現れた車ひかれ、ずぼりと私を覆う白魚のような雪の中へつっこんできた。まるでリコール請求のように勢いよくつっこんできたので尻尾だけが出ている。なんだかこの尻尾を引っ張ったら僕が黒髭危機一髪みたいに飛び出しそうではあるまいか。車にひかれた猫と私は滅びゆくソドムな時を過ごし、すっかり体が冷え、トイレを我慢していたので漏らしたのではあるまいか、いや、漏らしていない。
どうにかこうにか通りがかった人に助け出してもらい、うれしさのあまりに漏らしてしまったことは周知の事実であるからにして明記することは避けるべきであろうから今回は割愛するものとする次第で、かつ所存である。
散歩に行くついでにゴミを出した。僕が一番乗りだった。2時49分だった。
雪がちらつきはじめた。吹雪きになった。自動販売機の横に隠れた。
タクシーが通りがかった。「どうした?」と聞かれた。「寒いから」と答えた。
自動販売機の下にお金がないかチャックした。手に雪とホコリがついた。ハンカチでふいた。
猫の叫び声がした。行ってみた。車にひかれた猫がびくんびくんしていた。
そういえばCDをプレゼントされた。お気に入りの曲を歌った。猫が動かなくなった。
寝たら死ぬよ、と教えた。頬を叩いてみた。口から血が出た。
心臓触ってみた。動いていなかった。取り出して調べてもやはり止まっていた。
心臓持って帰った。小さかった。ポケットサイズだった。
壁に叩きつけてみた。ばしんといい音がした。夜なので迷惑だと感じた。
乾燥したらどうなるのか興味を持った。ひきだしの中にしまっておいた。雪が融けたら見てみることにした。
寝てみた。起きてみた。日記かいてみた。