げ。ない。車にひかれた猫の塔がない。ない、ない、ない。盗まれたか。森ビルの地下に?おいおい、僕の作品はみんなのものだけど僕のものだぞ。勝手にされては困る。駅職員に聞いてみた。ノイズがひどくて聞き取りずらかったが、要約するとこんな感じだった。
「は~?げへげへ。だひょーん気持ち悪いから捨てたんだよんよこよん。ぴゅー!」
なんてことだ。気持ち悪いだって?ピカソのゲルニカを思い出した。市から絵を頼まれたピカソはゲルニカを描いた。だが、市は気持ち悪いから展示しないと言ったそうである。僕はピカソは好きじゃないが、ピカソの才能は認めている。ゲルニカは戦争で苦しみ呻く人の声が聴こえてくる。僕の車にひかれた猫の塔は荒削りだけどそれなりに車にひかれた猫の叫びが聴こえると思ったのだが。残念だ。悲しい。帰って寝る。
計算では69個の車にひかれた猫を運ぶのに8回往復すればいいことが分かった。電卓の大活躍である。とにかく電卓はスゴい。計算が速く、正確なのだ。それはいいとして、私が4回目の車にひかれた猫を運んできた時の話をする。
駅に駅職員1人と警官が2人、車にひかれた猫を囲んで立っていた。予言とは違う。警官は完成間近に現れてオブジョクトの一部となり、駅職員は僕の車にひかれた猫の塔を見て
「は~?げへげへ。だひょーん気持ち悪いから捨てたんだよんよこよん。ぴゅー!」
という予定なのだ。だから一般受けするために花とUFOキャッチャーで取った人形を飾る予定だったのだ。現れるのが速すぎる。
彼らの話をバスを待つ人のフリをして聞くことにした。
まとめると、
1.悪質なイタズラであるということ
2.保険所が始末するということ
である。そりゃ、作品ができるまではただの車にひかれた猫の山にしか見えないからイタズラだと思うのは分かる。僕は振り向いて彼らに説明した。だが、僕の言葉は彼らに伝わらない。彼らの声もノイズまじりでよく聞こえない。警官が僕の腕をつかんだ。ヒーッ!!つかむな。僕をつかむな。ヒーッ。落ち着くんだ、落ち着け、■■。深く息を吸って、吐く…。
ほら、周りを見渡せば刺殺された駅職員と警官が転がり、あとは車にひかれた猫の山だけじゃないか。まだ僕の腕に冷たい手で握られた感触がある。創ってもそのうち保険所が来て捨ててしまうのか。ふー、報われないな。何か邪魔にならないものを考えないと駄目だね。