僕を取り囲む私を観察した不定期日記で自分は誰?


寝ることができない

どこかで
車にひかれた猫が鳴いているから
僕は寝ることができない
耳の根本がつっぱって
その声を聞こうとする
それは
風の音かもしれないし
赤ん坊の泣き声かもしれない
でも
車にひかれた猫かもしれないから
僕は
首をぐるぐる回して
目玉をぎろぎろさせて
ヨダレをだらだら流して
心臓どきどきいわせて
その声を聞こうとする

困惑

たまに目の前に転がっている車にひかれた猫が自分に思える。

新世界へ

弱っている車にひかれた猫を拾った。何か食べさせないとと思ってまたたびを入れたご飯を作った。僕がいては食べずらいと思って冷蔵庫の陰に隠れていた。二三口食べてげーと吐いていた。咀嚼して食べさせてあげることにした。消化も楽だしね。猫の口は胃酸ですっぱかった。口移しは様々な病原菌や虫を伝染させるから本当はやってはいけないことだ。

虫。伝染。そんなことを考えたら僕のすべての血管に黒くて足が8本あって赤い目をもつ丸い3ミリくらいの虫がびっしり渋滞して流れている気がした。ぶしゃあと僕が血飛沫をあげると何百万のその虫が絨毯の上を四方八方うじゃうじゃと這い出してあるものは僕の体を這いのぼってきてまた体内に入ったり爪や目や舌やへそに黄色い卵を生み出した。その卵が孵化してまた僕の部屋を這いまわって僕の沢山の死んだ車にひかれた猫に卵を生んだ。その卵からまた孵化して外に出て人々に生みつけて孵化して卵を生んで孵化して卵を生んで孵化して全人類は黒い虫で死滅した。あとは部屋で座って静かに笑っている僕と車にひかれた猫とヒトを除いた動植物だけのユートピアになっていた。

多分、多分僕が漠然と未来を感じる僕が支配した世界はこうやってできるのかもしれない。いつのまにか僕は車にひかれた猫の口に舌をいれていた。


僕と君との秘密だよ

人通りの多い午後。郵便ポストの下に車にひかれた猫が落ちていた。目も毛も尻尾も耳もすべてなめらかな黒い猫でこびりついた血も黒い。僕はほしかった。誰かのものかもしれない。でも僕はほしかった。サッとかがんでパッと腹を裂いてグッと胃の中に猫をいれてピッと腹をふさいで何喰わぬ顔で歩こう。もし、「それは私の猫ですよ。」と言われたら速攻で消化してしまい、「いいえ。私は猫なんか持っていませんよ。」と言おう。帰ってゆっくりうんこの中から取り出せばいい。完全犯罪だ。

僕はダダダとポストに駆け寄り、どっこいしょとかかんで鞄からがちゃがちゃとナイフを取り出した。くっ。計画に障害が出た。服の上からではナイフで腹が切れない。ベルトを外してシャツのボタンを外してシャツをまくる。ああ、みんなが見ている。持ち主が現れる前に作業を終えないと。腹にナイフをざっくり突き立てて上にナイフを引っ張る。ぐぅぅぅ。計画にはない激痛だ。どばっと自分でも驚くほど血が飛び出た。歩行者が叫び声をあげる。いつもは無視するくせして僕が何かしようとするとすぐに邪魔をする。

目を覚ますと病院のベットだった。僕は焦って窓に鉄格子があるかチェックする。大丈夫だ。ない。壁も固そうな壁だし拘束服も着ていない。医者が来てどうして腹を裂いたのか聞いてきた。馬鹿かこいつ。誰がこの計画犯罪を告白するか。計画犯罪は罪が重いんだぞ。


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