僕を取り囲む私を観察した不定期日記で自分は誰?


隠せ

10月から1月までストーブを使っていなかった。だからストーブ用のガスメーターが0。そのようなわけで以下のような手紙が届いた。会社名や名前などは××で隠してあるが、そのほかは私が打ち間違えていなければ同じ物である。




入居者各位

パールハイツB5 平成8年2月23日
■■殿    胚・××賃貸株式会社
       TEL ×××-××××

当社胚・××賃貸株式会社で管理している建物は、建築基準法で、特殊建築物に当たり、各消防本局に建物の設備等の機種及び設置場所を図面書類等で報告をし、定期的・抜き打ち的に、消防署の査察を受けなければなりません。又防火管理者は、××綜業(株)代表××××に成っております、従って、貴殿と建物賃貸借契約書を取り交わして入居使用して頂いておりますが、契約書第7条5項に禁止事項として、煙突を有しないストーブの使用、9項に危険・不潔・法令禁止物の持込み又は同行為と有りますが、貴殿は、下記の表の通り各月別電気メーター・水道メーター・Kガスメーター・Sガスメーター使用量が次の通りになっております。
従って当社では、貴殿が他のストーブ及び燃料を使用していると思われますので、契約書第10条・第11条1項・2項・3項により、この場合乙は直ちに本件建物を明渡さなければならないとなっておりますので、その他の方法で生活をしている方は、当社に至急連絡下さい。
尚、連絡が無い場合は、禁止行為をしているとみなし、不本意ながら建物の使用を禁止し、契約を解除致します。連絡期日は、この通知書到着後3日以内ですので宜しくお願いいたします。

営業時間は、午前8時35分~午後6時までです。その後は留守番電話になっています。メッセイジを願います。
追記  尚、上記禁止行為により建物室内に結露及び、カビ等が発生した場合は、契約書第19条により損害賠償をして頂く事になりますし、契約書第21条により契約料の返還請求権を失う事になります。
又連絡の返事によっては、お部屋の確認に参りますので宜しくお願いいたします。

平成7年~8年 電気メーター使用量 水道メーター使用量 Kガスメーター使用量 Sガスメーター使用量
10月          95.0                  1.5          0
11月          90.0                  1.9          0
12月          66.0                  2.1          0
 1月          48.0                  0.9          0
 2月          83.0                  2.1        5.9
 3月
 4月





ブニャー!!やばいよ、ヤバヤバ。うちのペット、アパート禁止なんだって。腐れ車にひかれた猫って世間一般での不潔?上の『又連絡の返事によっては、お部屋の確認に参りますので4649お願いいたします。』にひっかかったんだよ。だって、寒くないしエコロジーのためにストーブつけていないんだもの。どうすっよ。この車にひかれた猫たち。ああ、僕がパニックになっているから猫までパニックになっている。静かに!静かに!君たちがバタバタすると僕までバタバタしちゃうだろ。抜き打ち検査するっていうからな。ああ、勃起している。まず、オナニーしてから考える。


隠す

はあ。ぐったり…。オナニー後のアフタースリープが僕を優しく包む。寝ては駄目だよ…。こんな時に「こんにちは!大家です。」なんて来られたらどうするんだよ。寝てはいけないと知りつつ眠りに堕ちる快楽…。おやすみ…。

や、おはよう。快楽の眠りから覚めるとスッキリだね。大家もこなかったし。さて、君たち、透明になりなさい。おや?どうした?頭が冴えてこんなナイスな考えがスラリと口から出たよ。我ながら驚くね。なんだよ。不服そうな顔して。では、透明になれない猫は擬態を行いなさい。カレンダーとか時計とかなんでもいいから。招き猫とかしたらペナルティだからな。それも駄目なら一秒間に3万キロ移動していなさい。人間の目に見えないと思うから。もしくはミクロ化。踏まれないよう注意して。巨大化もいいね。数千キロの物体になれば視界に入りきらないもの。ああ、でもこれは部屋から少しはみ出るか。いや、かなり、か。

…。

…。ダラダラしていないで速く大家に見つからないようにしてくれないかな。困るんだって。君たちも僕も。

…。

…。おい、あくびしているなら消えてくれない?からかっているのか。こっちはマジなんだよ。いい加減にしろ。ほら、僕の脳ミソの奥底からリビドーが暴れている。服を着たワニが騒いでいる。アドレナリンが僕に力を与える。もう、ガツンを、したくないのに、君たちが、悪いんだ。君たちが。君たちが。キミタチガ。キミタガガ。キガガミガガガ。ガガガガガ。ガガガガガ。

あ~ん。僕ちんナニしちゃったのん?

……もしかして、「ナニ」?

キャー!!えっとお、なんだかおよそ車にひかれた猫をミ・カ・ンと書かれた箱に入れてー、火ぃつけてぇ。甘ったれた声出したりして。あ~ん。

あれ~?部屋に車にひかれた猫がいなーい。


笑い

常に変化し続ける燃える炎が僕を落ちつかせる。ぼんやりと炎を見る。僕は何をしていたんだろう。そうだ。部屋にいた車にひかれた猫を燃やしているんだ。ああ、そうか。燃やしているのか。徐々に黒く冷たいものが肛門から背中へと登ってくる。まさか。まさか。嘘だと思おうとする脳ミソを爆発的な勢いで打ち消す目の前の光景。ダンボールをつかんで雪にたたきつけ雪をかけまくる炭化した箱はもろくボロボロになり中からケロイドの車にひかれた猫がでる目が白く濁って皮からやたら赤い肉がのぞいている僕は体を反る後ろの壁に頭をぶつける僕は体を前に倒す黒い車にひかれた猫と灰で汚れた雪に倒れるゲヘヘヘヘゲヘヘヘヘ目から涙が出て喉から笑い声が漏れているゲヘヘヘヘゲヘヘヘヘ
車にひかれた猫_

ディスプレイに浮かぶ単語。単語?そう。確かに単語。だが、ただの単語ではない。僕にとってはただの単語ではない。大食いの秘訣は一気にドカンと食べること。僕は1匹の車にひかれた猫も食べれなかった。半分を食べたところで吐いてしまった。もう一度食べようと一口入れる。ゲボリとまた吐く。僕の胃には一片の車にひかれた猫もいない。全部目の前に置いてある。どうしようか。上の点滅するカーソルが気になる。口を開けてぼんやりしてみた。カーソルの点滅が気になる。車にひかれた猫の臭いがする。首をグルグル回してみた。また吐き気がした。動かずじっとしてカーソルを見つめた。チカチカする。ちらりと車にひかれた猫を見た。ゆげが立っている。変わらずそこにある。疲れが体を重くしているのが分かる。どんなことでも時間が解決する。経験でそれは知っている。これだけは時間が解決しない。毎回そう思ってやはり時間が解決した。その事実が苛立たせる。死ね死ね死ねと歌ってみる。あはは。あはははは。自分で一回死ねと言う度に心臓がちくりと痛む。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね…


静かな青

泣き疲れたあとにつつまれる眠気はオナニーあとの眠りに似ている。心地がいい。ああ、部屋がもう少し暖ければもっといいのに…。

波のない静かな青い海と雲のない明るい青い空。音も風もない心地の良い場所。僕は目玉なのかもしれない。体の感覚がない。下を見ても足も胴体もない。ただすんだ海が見える。海の底には高層建築物。そこに群をなした車にひかれた猫が流れるように泳いでいる。僕も海に入ってみることにした。無感覚だ。何も感じない。すっと海の中に入る。まるで大気のようにずっと向こうまで見える。僕はすいーっとカーブして泳いでいく車にひかれた猫を追う。海の中には何もない。静かな高層建築物と音もなく泳いでいる車にひかれた猫たち。海の底から小さな泡が連続して立ち昇っている。車にひかれた猫たちが向きを変えて僕の方へぐんぐん泳いでくる。先頭を泳ぐ車にひかれた猫の顔は裂けているせいで微笑んでいるように見える。微笑む顔裂け猫が僕をすっとすくって空いた左目に僕を入れる。少しそこは窮屈でいずらい。でも海の中は綺麗だ。僕の好きな海の…

体が痛い。僕は冷たいカーペットの上で目を覚ました。糸ひくよだれを大量に流しながら。


部屋の広さ

素晴らしい。18時47分じゃないか。あと3分で恐竜家族がはじまる。霧のかかった頭をすっきりさせるため冷たい水道水を飲んだ。星の王子さまと飛行士が沙漠で探し出した井戸の水を思い出す。

台所にもたれて部屋を見る。僕の部屋ってこんなに広かったっけ。車にひかれた猫がいないとずいぶん広く感じるな。空気がひんやりしている。猫の臭いがしない。


残酷と美しさ

ああ、恐竜家族は今日もおもしろかった。来週も楽しみだ。嵐のように過ぎ去ってまた静かになる僕の部屋。綺麗な夢だった。最近 Waterdance という映画を観たせいもあるかもしれない。Waterdance は車椅子の男が見た夢。

広い湖の中央で踊る自分。踊らないと沈んでしまうから。岸まで泳げない自分はどんなに疲れても永遠にそこで踊らなければならない Waterdance

その男は怖い夢だと言った。確かに怖い。でも…、すごく…、とても美しい夢だ。残酷の裏にあるすきとおった美しさ。

6年くらい前AMで偶然一回だけ聴いた歌。アイドルの歌。誰が歌っているのか分からない。たまたま聴こえてきた。それは歌の途中だった。その時の歌詞が

これは怖ろしい物語ね。キスを待ち続け、眠るなんて

未だに覚えている。その他はあらゆる意味でカスだがこのフレーズが今でも覚えている。そう。残酷な裏にすごく美しいものを感じてしまう。マザーグースやバラッドからも。

一番暖かいコートを着て外へ出た。誰も歩いていない静かな雪の道路。一本のまっすぐな道路。雪を朱に染め車にひかれた猫が仰向けに落ちている。その顔は裂けていてにっこり優しく微笑んでいるように見えた。

僕「こんにちは。」


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