僕は家と家との壁にはさまった車にひかれた猫に話しかけました。
「車をひくことはできないけれど車にひかれることならできるよ。」
そう猫の血が言っています。こりゃ一本取られたな。
(取ってねーよ。)
猫の動かない口はまるでそう言っているみたいでした。
僕は鏡のような水面から天井を見たいんだ。
綺麗な天井を見る前に息が苦しくなって水から顔を出す。息を整え、また静かに水の中に体を沈める。
口だけを出した状態で水面が水平になるのを待つ。
水平になった。
口も沈める。その時に波紋が広がる。
何分入っていたのだろう。苦しい。体が細かく動くせいか水面が水平にならない。でも、だいたい水平な水面から天井を見ることができた。
いいよな。車にひかれた猫は。いつまでも天井を見ることができて。
バスタブの中で座布団代わりにしていた車にひかれた猫の水を切りながらそう思いました。
帰り道の公園で一人で食べようと思った。家にいる猫たちが欲しがるから。でも、それはずるいことだと思った。以前、どこからかモグラを捕まえて僕の所に持ってきてくれた猫もいたし。モグラをみんなで分けて食べたっけ。ほんのカケラくらいにしかならなかったなぁ。
道に血が点々としている。縁側の下に車にひかれた猫が血の流れる腹をなめていた。目があった。
ということでケーキをあげっちゃったんだよ、と家にいる猫に話しました。猫たちは何の文句も言わずに聞いてくれました。
美談なので思わず掲載してしまいました。なんかこれを読むと僕っていい奴みたいだけど、ここだけの話、本当はあのケーキ一個に未練があるらしいよ。僕には内緒ね。